土絵具の制作体験
- atelier-titta
- 2024年10月14日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年10月15日
授業中に時々、子供達から「絵具やクレヨンはどうやってつくるの?」という質問を受けます。
色の安定性や手間、原材料の価格等の問題で、今はなかなか子供達が描く現場で天然素材の画材を使用することはありませんが、元来、絵を描くことにどのような前提があるのか、また、身近なものに潜む色にもっと目を向けていただけるようになればと思い、この夏から絵具をつくる体験クラスをはじめました。

この写真は、この夏、こどもたちが旅先や身近な場所から採取してきたものをお裾分けしていただき制作している土のサンプルになります。
土は乾燥させ、篩にかけ雑味を取り除くと驚くほど美しい色を見せてくれます。
授業はまず、集めてきた土の背景を想像するところからはじまります。
「地球は何年前にできたか知っている?」
「三百年前ぐらい?」
「じゃあ、月や火星には土はある?」
「あるよ!」
こんなやりとりから少し時間をかけて地球の始まりの姿、海ができ生物と地球が重なり合い土が生まれてゆくまでの過程を一緒に想像してゆきます。
そして、目の前にある自分が採取してきた土のなかに、さまざまな生命の生と死が凝縮されていること、長い年月をかけて生まれたその重みや匂い、触感をあらためて感じてもらいます。
「1センチ土ができるのに最低100年かかるみたいだよ!その土はどれぐらい掘って集めたの?」
「10センチかな?20センチかな?え!じゃあ、1000年前の土???」
「こんなふうにして生まれた土をつかって、これから絵具をつくります」
こどもたちの背筋がピンと伸びる瞬間です。

目の細かいふるいにかけた土を、さらに細かくすりつぶす過程はかなりの重労働です。
手に伝わる塊の感触がなくなってゆくまで時間をかけて丁寧にすりつぶすと、やがてきなこのようなふわふわの土が姿を表します。
すりつぶした前とあとでは下の写真のように色が変化します。土はすりつぶせばすりつぶすほど色が明るくなります。
よくすりつぶすのがいいかどうかはお好み次第です。

すりつぶした土は紙に定着させるためのアラビアゴム等を加えてガラス板の上でさらによくすりつぶしてゆきます。
「昔の人はどうやって洞窟に絵具で絵をかいたんだろうね。何をまぜてくっつけたと思う?」
「水?」
「水だと乾いたらどうなる?」
「あ、そうか・・・のり?」
「のり売ってたかな? 動物の油なんだって」
「え〜!」
こんな話でもりあがりながら作業を進めます。

絵具ができあがると、こどもたちはへとへとです。だいたい、1時間半で小さい子なら1つ作るのが限界です。
そしてできあがった土絵具で試し塗りをします。薄い色から濃い色までためしてみます。
これはこどもたちのそれぞれのためし塗りを集めた写真です。
いろいろな色の土絵の具ができました。

さて、このできた土絵の具に最後に名前をつけるのですが、このネーミングがとっても面白いです。
「今日は満月だから・・・これピーナツバターみたいだし・・・鈴ヶ峯で採った土だから・・・鈴ヶ峯ムーンバターにする!」
「有栖川公園の土で・・・あ!じゃあ、
アリスコーヒー豆にする!
世界に一つだけの自分の絵の具が完成すると同時に、「これ、今度描く絵の木のところに使う!」など、早速次への展開がイメージされてゆきます。子供達の想像力はすごいですね。

こどもたちと最後に、この写真のような世界の土絵具のサンプルコレクションを眺めます。そして自分の土がどのあたりの土に近いかなど見比べたりしてみます。
こどもたちは、この地球にしか存在しない土の色彩の豊かさにただただ驚き、そして今度は自分がもっとすごい土をさがしてくる!と意気込みはじめます。
いままで見向きもしなかったあたりまえのものがもつ美しさの再発見。地球とそこに存在した命が織りなす色彩の無限の広がり。
きっとこれから旅先や日常の風景の見え方が少しだけ変わると思います。
描くことは、見ること、見ようとすること、知ろうとすること、その延長にあります。
自分に与えられた感覚を総動員して、今、ここに在るということの意味を自分なりに吟味し、解釈し、伝えること。こどもたちの「描く」ということの根っこに、そのような世界と向き合い続ける力を持ち続けてほしいと思っています。
世界は、美しい。
その美しさはなんなのだろうか。
辿り着くことのないこたえに向かって、これからも身近なことから子供達と一緒に考え続けてゆきたいと思っています。
このプログラムは通年でいつでも体験していただけますのでご希望の方はご連絡ください。
対象は小学生以上になります。